点過去線過去

現在筆者の職場には、仕事の経験がしてみたい!ということで、パリのソルボンヌ大学で文学を学ぶ日本人学生の方が一人やってきています。こちらの仕事に使う語彙や用法が普段使っているフランス語とは違うので戸惑いもあるようですが、さすがにフランス語会話はうまい!筆者がフランス語で四苦八苦している横で、セネガル人スタッフからウォロフ語を習って、ビンタという現地名までもらっています。サムラ氏も「ムッシュ・ノダより覚えが早いね!」なんて…。

Rの発音もセネガルではかなりいい加減、日本人は日本的なラ行音で通してしまうこともあるのですが、彼女にはこのラ行音がわかってもらえない…。筆者が普段使っている運転手さんはジェロームさんというのですが、彼女が言うとジェホームさんになってしまいます。現地名のサムラさんがサムハさんになってしまうのは、ちょっと違うのでは、という気もしますが。

また先の週末にはダカールの沖合いに浮かぶゴレ島という島に行って来ました。ここはかつてフランスの植民地時代に、奴隷貿易の中心となっていたところで、コロニアル風の古い建物が並び、フランス以前、ポルトガル統治時代の大砲から、第二次大戦時の要塞まで残っているヨーロッパとの関係を示す歴史の島です。かつて奴隷を送り出していた館は、現在世界遺産になっているそうです。その内にホームページで紹介したいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、スペイン語の点過去と線過去がフランス語でどのように表現されるか、というのを取上げてみます。前回もちらっと書いたのですが、大雑把に言うとスペイン語の点過去、線過去と、フランス語の過去形の形の対応は以下のようになるようです。

スペイン語  フランス語

点過去    複合過去(口語)・単純過去(文章)
線過去    半過去

動詞の変化形から見ると、文法的には「点過去=単純過去」で「線過去=半過去」になっているようです。複合過去というのは、助動詞と組み合わせて作る形で、スペイン語の現在完了形のような形です。

点過去と線過去の違いは、簡単に書いてしまえば、点過去がある時点のみの事象を表す形であるのに対し、線過去は継続した状態を表す形である、と言えます。

例えば「私は子供だった」というのは、時間軸の一点においてだけ子供だったわけではなく、子供だった期間があるわけですから、点過去ではなく線過去を使います。以下は男性形で書いてあります。

Yo era un niño.

これがフランス語の半過去だと

J’étais un enfant.

となり、ほとんど同じものと考えてよいかと思います。

次は点過去です。「昨日パンを食べた」と言う時には、一時だけの行為ですから、線過去ではなく点過去になります。

Yo comí un pedazo de pan ayer.

これをフランス語に直訳すると、対応する単純過去を使って

Je mangeai un morceau de pain hier.

となるのですが、慣用的に口語では、複合過去を使って

J’ai mangé un morceau de pain hier.

のように言うようです。

筆者はひそかに、フランス語はあまりに複雑になりすぎたので、簡単な表現方法を採用するようになったのでは、と疑っているのですが、この表現方法なら、代表的な動詞・助動詞である avoir の現在形の活用さえ覚えておけば、あとは動詞の過去分詞形、この例だと manger の過去分詞である mangé をくっつければOKで、単純過去の活用を避けて通ることもできてしまうわけです。

ちなみにスペイン語の un pedazo de というのは「わずかばかりの」とか「ひとかけの」という意味で、「ほんのちょっと」と言う時には un pedazito などと言ったりします。

フランス語のほうの morceau は、「一切れの」「一塊の」という意味で、またよく使われるのが角砂糖(セネガルでは飲み物には必ず角砂糖です)の1個1個のことです。

フランスに長くいた人に聞いてみても、単純過去は書き言葉以外で使うことは珍しい、ということなのですが、実はフランス語の単純過去の語尾変化と、スペイン語の点過去の語尾変化は結構似ていて、スペイン語に慣れた人なら文章を読んだときに「ああ、これは点過去だな」と理解することができます。フランス語では主語を落としませんから、一層想像するのが容易です。

comer と manger を比べてみましょう。

comer   manger
comí    mangeai
comiste  mangeas
comió   mangea
comimos mangeames
comisteis mangeates
comieron mangerent